JAEVE全国大学獣医学関係代表者協議会

全国17の獣医系国公私立大学の協議会

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新しい獣医学教育

生体を用いない獣医学実習

近年、獣医学教育では動物福祉や感染症対策、農場等への立ち入り制限、さらには獣医師としての能力(コンピテンシー)に基づく質保証の観点から、生体を用いない実習の導入が加速しています。VRや高精度模型を活用した実習は、学生の心理的不安を軽減し、反復練習を可能にするだけでなく、学生全員が手技を実践できる環境を提供します。これによって学習到達度が可視化され、高い教育効果が確認されるようになりました。今後は、VRと現場実習等との最適な併用、デジタルコンテンツの共有、および評価指標の共通化が不可欠です。倫理に配慮した生体実習と高度なシミュレーション技術を組み合わせることで、教育の質を担保する「次世代の獣医学教育」を確立していかなければなりません。今回、第168回日本獣医学会学術集会・獣医学教育改革シンポジウムで示された好事例を紹介することで、他大学での導入や新たな実習システム開発が加速することを期待します。

各大学の事例紹介

麻布大学

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映像教材を主体とした獣医臨床教育の実践

獣医師になるために必要なのは、分厚い教科書の知識だけではありません。実際に手を動かす臨床手技の習得こそが大きなカギです。でも上達のスピードは人それぞれで、全員が同じ説明を一度聞くだけでは足りません。そこで私たちは、好きなタイミングで何度でも学べる動画教材を整備し、実習室ではタブレットやスマートフォンでその場ですぐ確認できる環境を整えました。さらに360度カメラとVRゴーグルを活用し、まるで目の前で手技が行われているかのような臨場感を再現。現在はVRシミュレーターで犬の全身麻酔や牛の難産介助も仮想空間で実際にコントローラーを操作して疑似体験できるところまで教材の開発を続けてきました。初めての実習前の緊張が和らぎ、理解度も向上することが論文公表データからも明らかになっています。そしてその結果、動物、学生、教員の負担も大幅に軽減されました。大切なのは「新しいから使う」のではなく、「目的に合っているか」。映像もアナログ教材も上手に組み合わせながら、学びを進化させています。

プレスリリースリンク

岐阜大学

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獣医学教育における手術模型の開発と実践

岐阜大学では、動物福祉の観点から、生体を用いない外科実習の実践を目指し、「犬の腹部手術模型」の開発に取り組んできた。本模型は、三層構造の皮膚模型を用いた切開・縫合操作に加え、腹部臓器模型を腹部ケースに立体的に配置することで腹腔内臓器の手術操作を可能とし、開業獣医師が日常診療において行う外科手技の習得を目的として設計されている。また、犬の外科手技の学習に特化することにより、従来の高価な海外製模型とは異なり、低コストでの製作を実現している点も本模型の特徴である。これにより、実際の手術に近い環境下で繰り返し練習が可能な教育環境を提供している。岐阜大学では学部4年生を対象とした外科実習において本手術模型を導入しており、学生が術者として主体的に手技を経験することで、従来の見学中心の実習では得られにくかった実践的理解および技能の習得が促進されている点が、大きな教育効果として認められている。将来的には、本手術模型を国内外の獣医系大学へ展開することにより、倫理的配慮と高い教育効果を両立した獣医学教育の新たなモデルの確立を目指す。

宮崎大学

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宮崎大学の産業動物臨床分野におけるVR教材を用いた教育

動物福祉や実験倫理、感染症リスクの観点から、獣医学教育では実習方法の見直しが求められている。2017年には全国的に動物代替法導入の検討が開始され、宮崎大学農学部獣医学科でもVR等のデジタル技術を活用した教育DXを推進している。

VR教材の教育効果と受容性を検証するため、獣医学科3~5年次学生を対象にアンケートおよび学修評価を実施した。「牛の難産介助」ではテキストならびにビデオ、VR教材の比較、「牛の臨床検査」ではビデオ学修群とビデオ+VR併用群の学修効果について比較した。その結果、各教材には特性があり、VRは没入感による学習促進効果が期待される一方、単独使用では不十分で、他教材との併用が有効であることが示された。今後は教材の質向上、機器導入コストへの対応、生体実習との違いを理解させる事前教育体制の整備が課題である。

酪農学園大学

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酪農学園大学における食肉衛生検査学実習とバーチャルリアリティー(VR)の活用

酪農学園大学では、4年次に畜産物利用学実習、5年次に食肉衛生検査学実習(学外)および食鳥検査学実習を実施している。

畜産物利用学実習ではアイスクリーム、ソーセージなどの衛生的加工について学ぶ。

食肉衛生検査学実習は①学内事前学習、学外での②食肉衛生検査学実習および③食品加工場見学の3部構成である。①学内事前学習では3つの実習を行う:(i)牛豚のバーチャルリアリティー(VR)による検査と廃棄判断の体験、(ii)北海道の食肉衛生検査実績とカラーアトラスを用いた実情の認識、(iii)豚健康と体を用いた学内ハンズオン実習。

VRは公衆衛生獣医師、NECと共同開発したもので、学外ハンズオン実習との比較検証の結果、高い教育効果が確認できている。しかしVRは補完と位置付け、②食肉衛生検査学実習では、学生全員が学外でハンズオン実習または見学を実施する。学外での③食品加工場見学は、民間企業で衛生管理の実際を学ぶ。

食鳥検査学実習は廃鶏を購入し、病理学的および微生物学的検査を実施する。

山口大学

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山口大学獣医学教育におけるDX活用の取り組み

山口大学では「明日の山口大学ビジョン2030」として、“ITの活用”、“DXの推進”、“ハイブリット講義’’による効果的な教育を提唱しており、以下の取り組みを行っている。

  • 鹿児島大学との共同獣医学部を設置し、遠隔講義システムとオンライン会議システムを融合した対面・遠隔のメディア講義を実施している。
  • 手術室、と畜場などの360度VRコンテンツやMRIデータ等から生成した臓器・血管・骨の3Dモデルを用い、立ち入りや入手・保管が困難な場所・サンプルに対する見学・実習を実施している。
  • 多数のカメラで撮影し、角度を切り替えながら視聴できるSwipeVideoやウエアラブルカメラによる実施者目線の映像コンテンツを用い、ガウンテクニック、縫合、保定、食肉検査等の学習を実施している。
  • 複合現実MRを用いて、遠隔で行われている実習を3Dで視聴することができるHands-Onシステムを用いて大動物医療の実習を実施している。
  • 超スマート社会に対応できる人材を育てるため、「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」応用基礎レベルに準じた教育を実施している